雨。
手が届かない、心も届かない。
じゃあわたしはどうやって生きていることを確認したらいいだろう。
世界はいつだって一方通行で、冷たい。
昨日も今日もわたしはいるらしいのに、雨に打たれている気分だ。
わたしを好きだというきみは甘いものがたべたくなる程度にわたしを思いだす。甘いものはたべすぎたら胸焼けするね。たまに食べるから満足するんだよ。
雨が淀んだ世界を洗う。アスファルトの隙間を流れるもの、屋根を滑り降りるもの、濡れて光った建物はどこかきらきらと美しい。雨の日は世界が増えるんだよ、踏みつけながら、見上げながら、ここじゃない世界の破片を眺めて、
僕らは曖昧につながっている。あまりに曖昧すぎて孤独が深まるって都会はそういう街さ。生まれてから一度だって確かなつながりなんてなかった。傷が見えなければだれも気づかないから、気にしないから、ひとつずる刻んでいるだけ。自分に言い聞かせる、まだ生きていると。痛みは最高の「生」だって知ってた?今夜はきみに会いたい、なにもしないでいられるきみに会いたい。冷たさも優しさも孤独も混ざり合った嘘ひとつないその温もりが、好き。
きみの名前もぼくの名前も知らないまま、忘れたまま、目覚めたら珈琲を飲もう。
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「雨の日の夜」
溶けてゆく夕焼け
太陽が沈んだら影も溶けて、足跡なんて消えちゃって、「僕」という存在は終わりを迎える。
瞳に映る萌える炎が、世界中を覆い尽くして境界線を埋めて、安定を見せつける。
境界線が隠れた何色でもない空を眺めていると、無性に死にたくなった。
コーヒーを飲みながら君のことを考える。
窓の向こうを並行して走る電車を眺め、
感覚と視覚のズレが僕を正常だと認識させる。
たとえ君が誰かとその電車に乗っていたとしても気づかない、そんな関係が好きだ。
アスファルトが色づいて生まれる夜景に僕も溶けこんでいる。
流れる足跡のように君のことも無残に流れてゆく。
薄情の愛だなんていわないで。
本物なんて誰も知らないから綺麗ごとでまとめているだけ。
夜の街を走る、動く夜景を歩道橋から眺めているあいだはひとりぼっちじゃない気がした。
夜景のなかに取り残されて絵画に潜りこむ。
死にたいとつぶやくのは、廃線になった線路の上に横になっている気分に似ている。
心の下にある感情を隠したつもりでいる君が触れてきても気づかないふりをして笑ってられる僕はきっと、君なんかよりもずっと汚い。
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